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冬の華

 

ある冬晴れの日。

以前から一度うかがってみたかった、雪の科学館を訪れてきました。 

石川県加賀市片山津。

この地が生んだ偉大な科学者、中谷宇吉郎(なかや・うきちろう)博士。

その功績を称え、その研究の成果や人柄を紹介するミュージアムです。

柴山潟(しばやまがた)のほとりに立地。湖の向こうには雄大な白山を望みます。

設計は世界的な建築家、磯崎新(いそざき・あらた)氏です。

 

入り口は2階にあります。

 

入館してまず目を奪われたのが、エントランスホールの天井でした。

 

六角形が連なるガラス張りの天井は、雪の結晶をイメージされたものでしょう。

明るい陽の光が差し込みます。

窓の上に広がる青空が六角形に切り取られたかのような、不思議な感覚を覚えました。

 

このミュージアム、中谷宇吉郎という科学者あるいは人物そのものに関心のある方は勿論なのですが・・・

子どもから大人まで(特に雪や自然、あるいは科学に興味のある方であればなお)楽しいところだと素直に感じました。

そのひとつの楽しみ方が「実験」です。

 

上の画像は、チンダル像。

氷が解ける際に生じる美しい模様にご注目下さい。

雪の結晶にも似たこの模様、自然のものだなんて本当に信じられないですね。

 

 

1階で体験できる実験のもうひとつが、氷のペンダントの作成です。

雪の結晶をイメージした、氷でできた透き通ったペンダント。

10分ほどすると解けてしまいますが、青空にかざすととても美しいのです。

きっとこの、解けてなくなってしまう、はかなさが私たち日本人の美意識にも通じているのでしょうね。

 

 

ガラス張りの建物は、ティールーム「冬の華」

湖(柴山潟)の向こうにそびえるのが白山連峰です。

手前の大小の岩や石は、グリーンランドから運ばれてきたのだとか。

中谷博士は晩年、グリーンランドでの研究活動に没頭しました。

 

ところで・・・

中谷博士は7歳のとき、九谷焼の名工であった浅井一毫(あさい・いちもう)に預けられるのです。

陶磁器への愛着や見識もこの頃から養われたものでしょう。

館内には中谷博士による陶芸作品や書も展示されていて、その人柄が偲ばれる思いがしました。

 

2022年02月17日

目利きのすすめ

 

 

2022年、寅年。

皆様、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

このウェブサイトが出来上がったとほぼ同時に、このブログも開始しているのです。

さかのぼってみると、2018年12月17日。

4年目に入りました。今年最初のブログになります。

 

さて・・・

ウェブサイト立ち上げの後、間もなくインスタグラムも始めました。

ということで私はインスタ4年生なのですが、皆様の投稿を拝見しながら、学ばせていただいています。

ご自身のライフスタイルに上手に取り入れていらっしゃる方が本当にたくさんいらっしゃるのです。

また、常々お客様と接する機会の中で、本当にすごいと感じることがよくあります。

 

 

以前、こんなことがありました。

5枚入荷した同じ図柄の古伊万里の染付の皿。

完品もあれば、貫入の多いもの、欠けたもの、完全に割れたもの、と状態はさまざま。

あるお客様は「これが良い」と真っ二つに割れたものを選ばれたのです。

 

数か月経ったある日のこと。

そのお客様から、お求めいただいたその皿を見せていただく機会がありました。

すばらしく見事な金繕いで、見違えるほどの美しさでした。

お尋ねすると、繕いをされる方をご自身で探して繕いを依頼されたのだそうです。

憚られましたが敢えてその代金をうかがうと、なんと〇万円!?

なんと!同じ図柄の無傷完品の皿より、繕いの料金の方が高額ではありませんか!

どうしてあのとき、完品をお選びにならなかったのですか? 

私の問いに対して、お客様はこうお答えになったのです。

これがいちばん図も色もよかったからです、と。

 

脱帽でした。このお客様は「目利き」だと思いました。

私よりも年齢も若く、古美術や骨董の知識もおそらくはそれほどお持ちではないようにお見かけしました。

が、品物への愛情や接し方は年齢や知識量で測られるものではありません。

目の前にある品物と正面から向き合い、枝葉末節にとらわれていないあたり、私も見習わねばと痛感した瞬間でした。

そして、そのとき心がとても温かくなったのをよく覚えています。

 

昨秋に新たにオンラインショップ【キズトツクロイ】をスタートさせました。

https://bandr.base.shop/

実は、この出来事も【キズトツクロイ】開始に至るきっかけだったのです。

補足となりますが、キズモノを選ぶこと、買うこと、また安価で入手することが必ずしも目利きだとは思いません。

また高価な繕いを施すことが必ずしも品物への愛情、愛着とは限らないように思います。

品物の魅力(本質)を捉える、(そして必要に応じてそれをさらに引き立たせる)

シンプルなことですが、とても素敵なことですね。

 

何か一石を投じるようなことができればと願いながら、少しずつ、品物のご紹介を進めています。

投稿を通じて私自身、考えを整理することに繋がっているのではと感じているところです。

本年もお付き合いいただけましたら幸いです。

 

 

 

 

2022年01月10日

富山スカイバス

 

赤いダブルデッカー。

中学1年生のとき、英語の教科書に載っていたロンドンの2階建てバスを見て憧れたものです。

さて、富山市内に赤い2階建てバスが現れました。

その名も「富山スカイバス」。富山駅前発着で富山市内のスポットを巡ります。

 

暦の上では冬となり、今日もこちらは冷たい雨の降る一日でした。

約1か月前はまだ気温が高くて半袖姿でした。信じられませんね。

その日もまさに菊晴れ。

快晴で、真っ青な秋空が広がる暑い日、このスカイバスを体験してきました。

オープンカーの2階に乗り込みます。

 

見慣れた富山市内の風景、しかし、自分のいる高さが違うとこんなに印象が変わるものかと、本当に新鮮に感じました。

期間限定の運行で、残念ながら今シーズンは10月いっぱいで終わってしまったのですが、また乗車する機会が楽しみです。

ちょっとした富山観光気分を味わうことのできるよい企画だと思いました。

将来富山にいらっしゃる予定のある方には、ぜひおすすめしたいです。

 

さて・・・スカイバスからの風景を写真に収めてきました。

富山市内のごく一部ですが、こんな町だと知っていただければ幸いです。

 

 

富山駅(南口)を出発して、まず左前方に見えてくるのが、富山市庁舎です。

市制100周年を記念して着工され、平成4年(1992)に完成。日本設計による設計です。

最上階の展望塔は入場無料。富山市街が一望できるほか、晴れた日には立山連峰も見渡すことができます。

 

 

その向かいが、富山県民会館。平成27年(2015)リニューアルオープン。

1階には「D&DEPARTMENT TOYAMA」が入っています。

デザイン的視点からセレクトされた富山アイテム、眺めているだけでも楽しいものです。

 

 

その並びには、富山城。

かつては佐々成正の居城で、江戸時代には加賀前田家の分家である越中前田家の居城となりました。

被災を経て、明治4年(1871)の廃藩置県により廃城。

現在の天守閣は戦後に建てられた模擬天守です。

 

 

富山市の新たなランドマーク、富山市ガラス美術館。設計は隈研吾氏。

ところでお気付きでしょうか、富山市内の信号機はほぼ100%縦型なのです。

 

 

車道から見上げたガラス美術館。歩道から見上げるのとまた異なる印象です。

6階は常設のグラス・アート・ガーデン。

デイル・チフーリ(Dale Chihuly)によるインスタレーションはぜひご覧いただきたいです。

 

 

富山市中心部。富山市唯一の百貨店、富山大和。

ガラス張りの空間は、グランドプラザの愛称で親しまれる全天候型の広場です。

市内の一等地ですが、(建物を建てずに)あえて「無」の空間となっています。

人が集まり人の流れが生まれるという考え方を以前聞いて、なるほど、と思ったことがあります。

ヨーロッパの広場(の役割)がモデルとなっているということなのですが。

 

 

富山市は路面電車が走る街です。

市内を流れる神通川(じんずうがわ)を渡る手前の一コマ。

路面電車がすれ違おうとしています。

画面奥に見えるのが、通称「呉羽山(くれはやま)」です。

 

 

富山県水墨美術館。

水墨画をテーマとした美術館ですが、さまざまな企画展(巡回展)も開催されます。

富山県に国宝・重文級の作品(刀剣を含む)がやってくる場合、大抵こちらに展示されます。

展示スペース自体はそれほど広くありません。

が、見事な庭園が広がり、ぜひおすすめです。

 

 

神通川の西岸から見渡す富山市街。

遠方にそびえるのが立山連峰です。

 

 

通称「環水公園(かんすいこうえん)」は人々の憩いの場。

富山駅からも徒歩圏内です。

運河の両岸に建つ双子の展望塔の間に赤い糸がご覧いただけますでしょうか?

大きな糸電話なのです。愛の告白スポットとして有名。

 

 

2017年にオープンした富山県美術館。

ここから眺める立山連峰もまた見事なのです。

旧・富山県立近代美術館の蔵品がすべてこちらに来ています。

富山県の国内外の近現代美術のコレクションはこちらでどうぞ。

環水公園向かいにあって、こちらも富山駅から徒歩圏内です。

 

 

スカイバスは富山駅(北口)まで戻ってきました。もうすぐゴールです。

「CENTRAM」文字入りの黒い車両のトラムはセントラムの愛称で親しまれる最新型の車両。

東西に広がる富山駅の構内を通過して、富山市の南北を結んでいるのです。

向かって左に見えるのが富山駅。

右は(先日ご紹介した)「オーバード・ホール」です。

 

 

富山は江戸時代からのくすりの街。

医薬品の会社も県内に多数あるのですが、全国の皆さんにも馴染みのある薬といえば・・・

正露丸も富山発のくすりです。ムヒもそうですね。

正露丸の会社キョクトウは、富山駅すぐそば。

周辺に正露丸の香りが漂っていることに、この日初めて気付きました(笑)

 

 

もうすぐゴール(富山駅南口)です。

また色の異なるトラムとすれ違いました。 

 

 

JR富山駅に到着。

駅舎2階、ガラスの向こうには北陸新幹線のホームがあります。

 

どうもおつかれさまでした。

約40分間のバス旅行、800円という料金もかなりリーズナブルだと感じました。

季節限定のようですので、事前にご確認いただき、ぜひ富山観光のひとつとして体験いただければと思います。

県外の方ばかりでなく、県内の方もとても楽しいと思います。

正直、私はすごくハマってしまいました(笑)

 

長々とお付き合いいただき、ありがとうございました!

 

2021年11月12日

Welcome to Toyama, Maestro!

 

先週末のこと。

世界の注目を集める若手マエストロ、アンドレア・バッティストーニ(Andrea Battistoni)富山に見参!

富山ではなかなかない機会、これは聴きに行かない訳にはいきません。 

 

会場は富山市芸術文化ホール。通称「オーバード・ホール」です。

富山駅(北口)を出るとすぐ目の前にあります。

 

ガラス窓の向こうに見えるのが富山駅(北口)です。

 

パンフレットの表紙は、マエストロの右手のデザイン。かわいくてかっこいい手です。

 

気鋭の若きマエストロの指揮はダイナミックでエネルギッシュ、生でその姿を眺めているだけでも迫力がありました。

天才と呼ばれる所以は何だろうというのが一つの関心事でしたが、

楽団員とのコミュニケーションをとても大切にしている様子がうかがえて、すごく印象的でした。

 

プログラム

・ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲

・プッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」間奏曲

・ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」序曲

・チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64

・ポンキエルリ:歌劇「ジョコンダ」より時の踊りフィナーレ(アンコール)

 

 

ところで・・・先月ワルシャワを舞台に盛り上がった第18回ショパン国際ピアノコンクール。

その入賞者によるガラ・コンサートが、年が明けた1月に富山にやって来るそうです!

会場は同じくオーバード・ホール。

残念ながら富山にもゆかりのある反田恭平さんはいらっしゃらないようです。

でも小林愛実さんがいらっしゃいます!

 

2021年11月09日

うちに こんなの あったら

 

雨の金沢。

兼六園周辺の「文化の森」に、またひとつ繰り返し訪れたい場所が増えました。

昨年オープンした国立工芸館。

現在「うちに こんなの あったら 展」が開催されています。 

 

ルネ・ラリックのジュエリー 

ルーシー・リーのボタン

 

 

ルーシー・リーと黒田泰蔵

 

竹橋にあった頃から、何度か訪れていた東京国立近代美術館工芸館。

優れた品々を間近でゆっくりと鑑賞することができるのですから、北陸に住む私たちにとっては本当に喜ばしいことです。

感染予防対策で現在のところ定員制・予約制となっており、来館者数はさほど多くないとは予想していたものの本当にまばらでした。

しかも観光の方よりは専門の方といいましょうか、雰囲気がデザイナーのような方たちとすれ違う率が高かったように感じました。

驚いたことに、館内では一部を除いてほぼ全ての作品が撮影可能なのです。

プロダクトデザイナーの方でしょうか、特定のコーナーに張り付いてひたすら撮影されている方もいらっしゃいましたから。

工芸家が多く集うこの地に移転してきたのは、工芸家あるいは人・文化を育てるという点でも意義深いことですね。

 

黒田辰秋の長椅子。木彫「葉」(須田悦弘)とのコラボレーション

 

 

 

どういうわけか、私の中では東京国立近代美術館工芸館といえば富本憲吉の印象がずっと強かったのです。

今回の企画展でも館内の一角を富本作品が並んでいました。

昭和30年(1955)色絵磁器の人間国宝(重要無形文化財保持者)としてはじめて認定を受けます。

色絵磁器の研究のため、九谷にも滞在していましたし、石川県(北陸)に工芸館がやってきた一因かもしれません。

 

 

 

こちらは常設の「松田権六の仕事場」

「漆聖」と称えられる松田権六は金沢が生んだ「蒔絵」の名匠。

富本憲吉と同じく、昭和30年(1955)に最初の人間国宝(蒔絵)として認定されました。

 

この国立工芸館は、明治期の旧陸軍施設として知られる明治期の洋風建築です。

この文化の森周辺には、金沢の明治・大正にふれるレトロな建築が数多く保存されています。

今回のブログの最初の画像は旧陸軍の兵器庫。

現在はいしかわ赤レンガミュージアム(石川県歴史博物館、加賀本多博物館)となっています。

建築といえば、谷口吉生氏設計の鈴木大拙館がおすすめです。

金沢21世紀美術館(妹島和世+西沢立衛/SANAA)も見逃せません。

文化の森は美術館や文化施設が密集し、ハシゴするだけでもまる一日いや数日楽しめるエリアなのです。

 

 

うちに こんなの あったら 展、4月15日(木)までの開催です。

 

2021年03月21日
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