「天正八」銘の花生
その姿からまず連想されるのは、砧青磁の算木の花生。
中国・南宋時代に龍泉窯で焼かれ、日本にももたらされました。
日本陶磁でも、算木花生といえば、桃山時代の茶陶で志野織部や備前(伊部)の作品が知られており、
いずれも、唐物(中国製)の影響を強く受けていると認識されているのです。
さて、この花生は陶製ではなく、鉄でできています。
4つある面のうち、2面に算木文様。
そして1つの面には、興味深いことに「天正八●」の文字があります。
天正8年は、1580年。天正3年に長篠の戦い、天正10年に本能寺の変がありましたから
織田信長や羽柴秀吉が活躍した時代の真っ只中といえます。
信長や秀吉によって、茶の湯が政治に結び付けられるのですが、その中で唐物が大いに珍重されました。
志野織部や備前の算木花生もそうした背景の中で生まれてきたものでしょう。
素材こそ違えど、鉄でできたこの花生からも唐物へのあこがれが伺い知れるのです。
もっとも、銘があるからといってこの品が実際に天正8年に作られたものだとは限りません。
しかしながら、中世の香りを残す品物であることには間違いないでしょう。
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