明治16年の世界地図

今月、富山県内のある港町の旧家に伝わった『懐中節用無盡蔵』という古い冊子を手に入れました。

懐中というのは、携帯用ということでしょうか。

節用というのは、節用集のことを指しているようです。

節用集というのは、室町時代に生まれたとされる用字集や国語辞典のことです。

江戸時代を通じて広く流通しますが、時代とともに付録や内容が増加して、百科事典的なものに変わっていくものもありました。

明治16年(1883)刊のこの冊子にも、本当にさまざまな情報が掲載されており、

今日の○○手帳(茶道、歴史、・・・)のような感じでしょうか。

時間のあるときにときどき開いては、当時の情報を眺め楽しんでします。

 

『懐中節用無盡蔵』の中の一頁に「萬國全圖」として世界図が登場し、明治初期の人々の世界観がうかがい知ることができます。

 

このような東西の両半球を描く世界図は、日本には18世紀の半ば以降に、オランダ経由で伝わったと言われ、

主に蘭学者たちによって日本語版が描かれたようです。

本初子午線は、0度の経線。180度経線とともに形成する大円によって、東半球と西半球とに分けられます。

この図では、イギリスのグリニッジ天文台を基準としたグリニッジ子午線が本初子午線になっているように見えます。

なお、明治5年(1871)に海軍省ではグリニッジ子午線を本初子午線として採用しました。

 

ところで、地図に出てくる地名や海の名など、当時の呼び名が現在と異なっているものもあり、面白いものです。

太平洋(たいへいよう)が「大平洋」「大平海」と表されています。オーストラリアは「オースタリヤ」。

その他に登場しているのは、日本、マンシウ、シベリヤ、アフカニスタン、ウラル山、アラビヤ、フランス、イギリス、

エチプト、サハラ、マタカスカル、喜望峰、クリインランド、合衆国、メキシコ、アンテス山、ブラシリ、チリ―、サンドウイチ。

亜細亜洲(アジヤシウ)、欧羅巴、亜非利加洲、北亜米利加、南亜米利加、ヲセニヤ洲、北極、南極。

大洋の名としては、印度洋、大西洋、大平洋(大平海)。南極のまわりは氷洋・南氷洋となっています。

 

『懐中節用無盡蔵』の中で、この萬國全圖のあとには、世界の国名が続いています。

亜細亜洲(アジア)、阿非利加洲(アフリカ)、欧羅巴洲(ヨーロッパ)、北亜米利加洲(北米)、南亜米利加洲(南米)、大洋洲(オセアニア?)

の地域に分けられ、70~80の名称(国名)が並んでいます。

こちらも興味深いので、またの機会にご紹介したいと思います。

 

2020年05月19日