what you see is what you look at

大学時代に、翻訳を少しかじりました。

翻訳の講義を担当されていたのは、日本の同時通訳界の草分けとも言われるI先生。

サッチャー首相、マハティール首相、ガンディー首相、クリントン大統領をはじめ、要人の通訳を務められた方です。

逐次通訳と同時通訳は同じ通訳とはいえ別物であるということ、

また翻訳と通訳とは全く異なるものだということも常々おっしゃっていました。

通訳や翻訳の世界の話を伺えるのが楽しみで講義には欠かさず参加していました。

 

I先生から教えていただいた中でも特に印象に残っている言葉が

"What you see is what you look at."

です。「見る」という意味の英語"see"と"look"のニュアンスの違いを明確に表されたもので

人は見ようと思うものが見えてくる、とでもいいましょうか。

別の言い方をすれば、人は色眼鏡を通して物事を見ている(のだから、それを絶えず意識しなさい)

という教えでした。

 

ところで、4月1日のNHK「歴史秘話ヒストリア」では、謎の天目茶碗が取り上げられていました。

第4の曜変天目の発見か⁉ということで議論が展開されていくのですが、

権威の先生方の、信念をかけて真実に迫ろうという様子がひしひしと伝わってきました。

仮説を立て、科学的な手法で立証していこうというアプローチですが

まさに "What you see is what you look at." の教訓が頭をよぎっていました。

 

途中、窯変天目のルーツを探るため、福建省の建窯の映像が流れました。

建窯は本当にスケールの大きな窯跡でした。

窯変天目は建窯で焼かれたと考えられてきたため、発掘調査もされてきたものの、陶片ひとつさえ出てきていないのです。

しかし日本には古くにもたらされた窯変天目が複数伝わり、しかも日本にしか存在しないという謎。

いずれ科学的に解明される日が来るのでしょうか、世界の学者の先生方の研究調査を待ちましょう。

 

 

上の画像は、建窯で焼かれた名高い建盞(けんさん)ではありませんが、

福建省の周辺の窯で、南宋から元にかけて焼かれたと思われる天目です。

唐時代から喫茶の風習が一般化し、宋時代にはさらに普及し、中国全土に広がったといいます。

 

2020年04月12日