古伊万里に描かれた仏像
金沢で見つけた古伊万里のうつわの話です。
古い箱の中にいくつかの古い食器が混ざった中に、ふと目にとまった古伊万里の色絵の向付がありました。
八角形で、各面に何やら人物が描かれています。そして・・・
黄色い仏像らしき姿を発見!拝まれています。
いったいどんな由来の図なのかと興味がわき、調べてみることにしました。
手掛かりは、各面の人物図の余白に染付で書かれた漢詩らしき漢字の羅列。
ひとつの面には「李白」の文字が見えました。
さらに解読できる漢字をたよりに、検索してみると・・・
ありました、ありました。「飲中八仙歌」。盛唐の詩人で「詩聖」と讃えられた杜甫の作品です。
酒中八仙として勇名を馳せていた8人の酒豪たちを、親しみをこめてユーモラスに謳った詩。
登場人物8人の名と漢詩(漢字)を照らし合わせてみると、なんと順番通りぴったり合致しました。
①賀知章 | ②汝陽王李璡 | ③李適之 |
⑧焦遂 | 杜甫? | ④崔宗之 |
⑦張旭 | ⑥李白 | ⑤蘇晋 |
気になる仏像のある場面は、八仙の第五、蘇晋(そしん)のエピソード。
仏教に凝った蘇晋は、刺繍された弥勒仏を拝んでいたとのこと。
この黄色い像は、弥勒仏だったんですね。
余談になりますが、この弥勒仏、布袋のようにも見えませんか。
布袋は晩唐に実在した僧なのですが、のちに神格化され、弥勒信仰と結びつくのです。
そのため、後世においては弥勒仏はしばしば布袋の姿で描かれるようになりました。
杜甫が生きたのは盛唐、布袋は晩唐。杜甫の時代には布袋はまだ生まれていませんでした。
このうつわに絵を描き入れた画工は、おそらく注文を受けてから絵手本をもとに絵付けを行ったはずなのですが
その絵手本が明代のものか清代のものか、弥勒仏が布袋の姿で描かれていたのでしょう。
ちなみに高台内には「大清康煕年製」銘。絵手本は康煕年間のものだったかもしれません。
康煕年間(1662~1722)はたいへん長く、日本の年号でいうと寛文から享保までとなります。
それにしても、仏像が登場する古伊万里があったとは、なんとも驚きでした。