江戸のキュビズム
古い木箱の中に染付の渦模様が見えて、「あれ?」
ぐるぐる目が回りそうな渦の文様は、けっこう好きなものです。
外側はどんな柄かな・・・(洒落た柄だといいな・・・)と思いながらひとつ手に取ってみると・・・⁉
江戸後期の伊万里であることは間違いないのですが、なんとも斬新なデザイン。
器面の分割の仕方もあまり見かけたことのない、前衛的な構図です。
これは渦で・・・これは青海波で・・・
描かれた文様をひとつひとつ読み解いていきます。どうやら海とか波に関係しているようです。
じゃあ、これは何だろう?濃く塗りつぶされた枝のようなものが、どうも見当がつきません。
縦に見たり。横に見たり。何度もひっくり返してみますが、謎は解けません。
いったん考えるのをあきらめ、頭を冷やすことにしました。
そして数時間後。
!!!謎は、意外とあっさり解けました。答えは「波」でした。
伊万里のうつわによく登場する波の文様を、上下に向かい合わせて並べていただけのことでした。
濃いダミの部分は、その波同士の合い間を塗りつぶしただけにすぎません。
1つのうつわをまるごと使って、波(海)を立体的に表現しているんですね。
口縁内側も渦模様が描かれていますし、口縁自体が波打った形状をしています。
器面内側の白磁の部分に飛び散る呉須も、波しぶきに見立てて意図的に散らされたとさえ思うほどです。
その発想力には感服するばかりです。
まるでキュビズム。ピカソやブラックによって20世紀初頭に創始されたことになっていますが
日本でも、その一世紀も前にこんな発想を抱いた人がいるのだと知り、不思議な感動を覚えました。
約20年前、私の修行が2年目に入った4月のちょうど今頃、
仕入れのため、主人と兄弟子とで四国に車で行った時のことです。
初めての淡路島。初めての四国。車窓からの景色は、私にとってまるで外国(南国)に来たかのようでした。
圧巻は、鳴門の渦潮。大興奮したのを今でも覚えています。
!!!このうつわ、鳴門の渦潮かもしれないですね!