時のかけら

 

古美術の修行中、主人から常々言われていたのは、

「力を感じる」ことでした。

ただ、その方法を具体的に教わるわけではありません。

日々さまざまな品物と接する中で、自分なりにその感覚を

培っていくしかありませんでした。

 

ある日、兄弟子と私は主人に呼ばれました。

何か大きな失態でもあったかな、と飛んで主人のもとへ駆けつけると、

仏像の天衣の残欠が10ばかり並んでいました。

「この中から力のあるものを選べ」

突然そう聞かれ、兄弟子も私も、頭の中はフリーズです。

残欠を手に取ってみても、どれが正解なのか、全く見当もつきません。

首をかしげながら、それぞれ考えながら(半ば当てずっぽうで)一つずつ選びます。

・・・そして主人は一つの残欠を手に取って、私たちの目の前に黙って差し出しました。

「そもそも考えているようではあかん」

・・・

どんなことがあっても眠れるのが自慢であった私も、

その日のその出来事を思い返すと、なかなか寝付けませんでした。

 

「力を感じる」とは、どういうことか?

今でも私にとってのテーマであり、意識しながら品物と向き合うようにしています。

 

 

 

最近手に入れた、縄文土器のかけらです。

紅いベンガラが残り、数千年前の人々の色彩感覚がうかがえるようです。

透かしのある、みずみずしい曲線。

もとはどんな姿だったのだろうと想像をふくらませます。

手のひらにおさまるほどの断片ですが、大きなエネルギーを秘めているのを感じます。

 

 

 

こうした時のかけらを拾い集めて、皆様にご紹介しながら

自分自身も品物からのエネルギーを感じて、心の糧にできればと思っています。

 

 お買い上げありがとうございました。

 

2019年04月07日