時のかけら
古美術の修行中、主人から常々言われていたのは、
「力を感じる」ことでした。
ただ、その方法を具体的に教わるわけではありません。
日々さまざまな品物と接する中で、自分なりにその感覚を
培っていくしかありませんでした。
ある日、兄弟子と私は主人に呼ばれました。
何か大きな失態でもあったかな、と飛んで主人のもとへ駆けつけると、
仏像の天衣の残欠が10ばかり並んでいました。
「この中から力のあるものを選べ」
突然そう聞かれ、兄弟子も私も、頭の中はフリーズです。
残欠を手に取ってみても、どれが正解なのか、全く見当もつきません。
首をかしげながら、それぞれ考えながら(半ば当てずっぽうで)一つずつ選びます。
・・・そして主人は一つの残欠を手に取って、私たちの目の前に黙って差し出しました。
「そもそも考えているようではあかん」
・・・
どんなことがあっても眠れるのが自慢であった私も、
その日のその出来事を思い返すと、なかなか寝付けませんでした。
「力を感じる」とは、どういうことか?
今でも私にとってのテーマであり、意識しながら品物と向き合うようにしています。
最近手に入れた、縄文土器のかけらです。
紅いベンガラが残り、数千年前の人々の色彩感覚がうかがえるようです。
透かしのある、みずみずしい曲線。
もとはどんな姿だったのだろうと想像をふくらませます。
手のひらにおさまるほどの断片ですが、大きなエネルギーを秘めているのを感じます。
こうした時のかけらを拾い集めて、皆様にご紹介しながら
自分自身も品物からのエネルギーを感じて、心の糧にできればと思っています。
お買い上げありがとうございました。